放射能汚染マネー還流横領・背任・脱税事件
「植草一秀の『知られざる真実』」
2019/10/04
放射能汚染マネー還流横領・背任・脱税事件
第2447号
ウェブで読む:https://foomii.com/00050/2019100406000059026 ──────────────────────────────────── 日本の原発ビジネス実態の一端が明らかになった。
関西電力の八木誠会長や岩根茂樹社長など役員ら20人が、原発のある福井・ 高浜町の元助役から、合わせて約3億2000万円もの金品を受け取っていた ことが明らかにされた。
これは氷山の一角である。
原発放射能汚染マネーの還流事件は、臨時国会の最重要テーマのひとつにな る。
臨時国会には、これ以外にも安倍首相が国会で繰り返し交渉しないと宣言して きた日米FTA承認案が政府から提出される。
「米国とFTA交渉をしない」との公約を破棄していることもさることなが ら、日本が唯一メリットを得ることができる自動車および自動車部品の対米輸 出関税撤廃が消滅した事実は重大である。
茂木敏充氏は日米FTAを取りまとめたことで外務大臣に抜擢されたと伝えら れているが、日米FTAは売国のTPPをはるかに上回る国益喪失=超売国協 定になっている。
この問題も徹底追及が必要だ。
しかし、この問題が吹き飛んでしまうような重大事案が表面化した。
放射能汚染マネーの還流事件である。
当然のことながら、刑事事件としての立件が視野に入る。
関西電力の末端職員の不正事件ではない。
関西電力の原発事業を取り仕切る最高幹部による巨大不正事件である。
関西電力社長が記者会見を行ったが、大企業トップの会見とは思えぬ、稚拙で 締まりのない会見になった。
マスメディアは金品を渡していた高浜町元助役の森山栄治氏が地元で恐れられ ていた人物であったことを強調するが、事件の本筋とはかかわりのないことが らだ。
10月2日の会見で金品を受け取った20名の個人名と受領金額等が公表され た。
受領金額がもっとも多かったのは常務執行役員の鈴木聡氏で1億2367万 円、次いで元副社長の豊松秀己氏で1億1057万円。
このほか、森中郁雄副社長が4060万円、八木誠会長が859万円、岩根茂 樹社長が150万円であったとされた。
調査委員会は昨年7~9月に調査を実施している。
しかし、これまで一切、事実関係が公表されることはなかった。
金品を受領した者が受領した金品の多くを返却したとされるが、返却したのが 問題発覚後であるなら、事案の悪質性は減殺されない。
調査報告書には森山氏について「自身やその家族の身体に危険を及ぼすことを 示唆する恫喝」があったなどの記載があるが、金品受領を正当化するための方 便でしかない。
この調査結果は取締役会にも報告がなかった。
森山氏は高浜町の助役を辞めた後、地元の建設会社である吉田開発の顧問を務 めた。
この会社から森山氏へ、手数料として約3億円が支払われており、建設会社は 関西電力から原発関連工事を受注していた。
吉田開発の2013年の売り上げは約3億5000万円だったが、2018年 には6倍の約21億8000万円に拡大した。
10月2日の会見で関西電力の岩根茂樹社長は、森山氏と面会して(社長)就 任のお祝いを受領した際、お菓子か何かと思っていたら、その下に金貨が入っ ていて非常にびっくりしたと述べた。
時代劇の悪代官と悪徳政商のやり取りを彷彿させる場面が吐露された。
渡された金品の返却を申し出ようとしたところ、森山氏から
「なぜわしの志であるギフト券を返却しようとするのか」、
「無礼者 わしを軽く見るなよ」
などと激高され、返却を諦めざるを得なかったの状況があったとした。
これが事実であるなら、取締役会で事実関係を精査した上で、企業としての対 応を検討し、実行するのが当然である。
企業の中間管理職が私的に悪事に手を染めたのとは次元が異なる。
企業の最高幹部として、こうした状況を重大事案として取締役会で検討、対応 するべきことは危機管理の初歩の対応だ。
現実の対応として、関西電力幹部は巨額の金品を受領し、私腹を肥やす行動を 取った疑いが濃厚だ。
金品返却の行為が、問題が発覚した以前のものだったのか、問題発覚後のもの だったのかが決定的に重要になる。
原発にかかる費用は電力消費者が支払う電力料金から賄われる。
また、原発立地自治体には国家から巨額の交付金が支払われる。
これらの公的資金が原発事業支出の原資である。
その資金が電力会社幹部に還流して、電力会社幹部が私腹を肥やす行動を取っ ていた。
刑事責任が厳正に問われなければならない。
建設会社が電力会社に対する売り上げを急激に伸ばし、売り上げ増大に貢献し た仲介者に巨額の手数料が支払われる。
その手数料が事業の発注者である企業の幹部に還流する。
企業幹部は企業の所得とせずに自分の個人の所得として懐に入れてしまう。
税務申告さえ怠っていた疑いが存在する。
この図式は原発事業に限るものでない。
政府の財政支出全般にかかる重大不祥事である。
政府は巨大な資金を公共事業予算として投下する。
その投下資金が土木建設事業者に流れる。
事業の受注に際しては談合が蔓延し、フィクサーが介在して事業発注が決定さ れる。
価格はあってないようなものだ。
実勢価格よりもはるかに高い価格で事業が受注され、その超過利潤の一部が仲 介者であるコンサルタントに支払われる。
このコンサルタントから政治屋などに資金が還流する。
これが安倍内閣下の利権財政の実態だ。
役所と政治屋はこうした「裁量支出」を好む。
「裁量支出」こそ「利権」の温床なのだ。
「裁量支出」と反対の性質を持つ財政支出が「プログラム支出」だ。
医療費にしろ、年金にしろ、生活保護費にしろ、政策プログラムによって支出 が決定される。
財政支出の金額は法令で定められ、不正が介入する余地が極めて小さい。
農家に対する個別所得補償、高校授業料無償化、子ども手当、高速道路料金無 料化など、こうした財政支出の受領者は一般国民になり、財政支出の金額は客 観的に明確になる。
これが「プログラム支出」である。
「プログラム支出」は「裁量支出」と異なり、一般国民が受領者になり、支払 金額が客観的に明確に把握されるものである。
利権官庁と利権政治屋は「プログラム支出」を徹底的に嫌う。
「プログラム支出」は「利権」を生みにくい。
「金と票」になりにくい財政支出なのだ。
利権官庁と利権政治屋が求めるのは、特定の利権を特定の人物や企業に、「自 分のさじかけげんで配分する権限」なのだ。
この「権限」の行使が「金と票」を生み出す。
2009年に誕生した鳩山内閣が財政支出のプログラム化を推進した。
上記の子ども手当、高校授業料無償化、農家個別所得補償、高速道路料金無料 化などの施策を推進した。
これに対して、利権官庁と利権政治屋から批判が沸騰した。
彼らはこれらの支出を「バラマキ財政」と称して批判した。
批判した最大の理由は、財政支出のプログラム化進展が、裁量支出―裁量財政 の縮小を意味するからだ。
裁量財政こそ、彼らの利権の源泉である。
そこで、彼らは財政支出のプログラム化、プログラム財政の路線を「バラマキ 財政」と誹謗中傷したのだ。
いまこそ、財政の構造改革を実行するべきときだ。
財政の構造改革とは、「裁量財政」から「プログラム財政」への転換を意味す る。
原発ビジネスこそ、「裁量財政」の典型である。
軍事支出と原発ビジネスこそ、不透明な価格体系の総本山だ。
価格はあってないようなもの。
法外な価格を設定し、「超過利潤」から「裏金」が創出される。
その「裏金」が利権政治屋などに還流する。
この「裏金構造」は財政資金から利権政治屋への還流が主流を占めているはず だが、今回の事例は、その裏金が大企業最高幹部に還流したものである。
通常のコンプライアンス重視の感覚を持つ企業の幹部であれば、裏金還流をそ のまま放置することはあり得ない。
取締役会で事実関係を精査して対応策を講じるはずだ。
関西電力にはその常識が存在しなかった。
驚くべき現実が発覚したと言える。
これで日本の原発ビジネスは終焉することになるだろう。
原発ビジネスでは学者集団が裏金還流に群がる構造も蔓延してきた。
日本全体が腐敗、堕落している現実の一端が発覚してしまったものと言える。
日本凋落の闇はあまりにも深い。